提案は点ではなくてプロセスで考える 2007.05.16
製造業の方と話をすると「わが社の目標は提案力を高めることなんです」とか、
「提案力をつけなくては生き残れない」と言う言葉を耳にすることがあるので
すが、
この「提案力を高めたい」とは具体的にどのようなことですか、と聞いてもな
かなか明確な答が返ってきません。
さて一般に「提案」というと企画書や提案書を出すプレゼンテーションのこと
だったり、デザインを創作することだったり、相手のウオンツを汲み取ること
だとか、いろいろと言われるのですが、
私は、提案力というのは、価値を生み出す創造力と、その価値を伝えていく伝
達力を合わせたものだと考えています。
例えば「商品開発の提案」の最終目標はどこか、考えてみてください。
実は「企業へのプレゼン」ではありません。
「デザイン画を描くこと」でも「試作」でも無いし「生産」でもありません。
あえて言うなら「商品がお客様の手に届く」ことが目標ではないでしょうか。
提案の目的がお客様の手に商品を届けることなら、提案とは企画・デザインさ
れたイメージを、会社のスタッフや上司、取引先、協力工場を説得し、働きか
け、巻き込みながら、商品に仕立て上げ、それをお客様の手に届けるプロセ
ス全体を指すのではないかと思うのです。
ですから私は、商品開発提案は、自分からお客様まで「バケツリレー」をして
いくイメージを持ちます。最初のバケツに水が少なければ(商品力が低いと)
お客様に届くものが少ないし、次の人のバケツに水を移しかえるときに手際が
悪いと(伝達力が低いと)水が減ってしまいます。
さらに最終的に誰に渡すのか、どのような中身を求めているのか、分かってな
ければ、せっかく届けても役に立ちませんから、事前に把握しておかなければ
なりません。
お客様の手に届く場面を想定して、そこからお客様→売場→営業→生産→開発
という通常の商品流通の逆の流れで、順次求められるものを考えていき、商品
としてのあり方を検討していくのです。
・お客様が欲しいと思う商品はどんなものか?
・お客様が比較する競合商品はどんなものか?
・お客様に喜ばれるために、その会社のどのような資源が使えるか?
・お客様に選んでもらうために、どのような情報を提供するのか?
・・・・延々と続く
等を考慮に入れて、逆算しながら商品開発プランを立てていきます。
また、開発プランを立てただけで終わりではなく、お客様に届けるために、
まず上司に伝えて、メーカーの開発担当者に伝えて、製造担当者に伝えて、
自社の営業に伝えて、取引先のバイヤーに伝えて、売場の担当者に伝えて、
販売担当者に伝えていかなければなりません。
それぞれの段階で周囲の人に働きかけて、理解させ、自分の意図を現実化でき
るように動いてもらうために、適切な情報を提供することはもちろんですし、
理解を促進するためにコミュニケーションを取る必要もあります。
さらに、理解し、共感した人から次の人に意図を伝達してもらえるように、
関係者を巻き込んでいくための仕掛けを用意していかなくてはなりません。
意図が伝わることで商品が生まれ、育ち、一歩一歩顧客の手に近づくように
リレーされていくのです。
この届けていくためのプロセス全体を作る力が提案力ではないでしょうか。
提案力があるとか、ないとか言われますが、
提案力というのはプレゼンが上手いとか、上手くないとかではなく、
もちろんただ単に提案書が良くできているとかの問題でもなく、
デザインがマーケットにあっているとか、お客様をどれだけ理解しているか、
企業にとって作りやすい商品とかということだけでもありません。
これらは能力を「点」で捉えています。
私が考える提案力というのは、
お客様と企業の間に理解をつないでいく「プロセス」を推進する力です。
意図を実現させ、お客様に届ける力 でもいいでしょう。
一部分の能力だけではなくて、「つなぎ」「届け」ていく推進力なのです。
点ではなくて線のイメージです。
線をつなげるイメージで考えると、どこか一部分でもプロセスが断絶してい
ると、他がどんなに良くてもお客様の手に商品が届かないのです。
だから提案力を強化しようと思えば、つなぐ、届けるプロセスから見直して、
総合的に能力を高めていかなくてはならないのです。