小さいブランドは戦わないで成長を目指す 2006.01.31
■小さなブランドは熱狂的な顧客を増やしていく
創業期のデザイナーがブランドを立ち上げ、顧客を獲得していこうというときに、足かせになるのが「小ロット」であることではないでしょうか?まだ販路ができあがっていないので、一つの型について数点から十点ぐらいしか生産できません。生産点数が少なければ、量産を依頼する製造工場からは嫌がられ、納期は遅れがちになり、価格も割高になります。
そうすると、信用も無いし、知名度も無い、しかし価格だけは高いという新規ブランドはショップ側からしたら仕入れにくいのも事実です。生産ロットが少ないのでよけいに売れないという悪循環にはまってしまうこともあります。
大手企業が立ち上げるブランドであれば、導入時期から採算ロットでの製造計画を立てられるので、適正価格で市場参入が可能です。知名度もデザインも価格も納得いく商品ができてくるでしょう。
ましてや、既存ブランドであれば、緻密な販売計画によって、ロスを抑えた効率的な生産により、値ごろ感のある商品になっています。
さて、創業期のデザイナーが、ビジネスとしてブランド作りに取り組んでいくのなら、この大手や既存ブランドとの競合と言う構図を頭に入れておく必要があると思っています。
※ビジネスとしてではなく、「自分の楽しみとしてブランドを作る」というなら頭に入れる必要はありません。また「競合なんて関係ない、自分の思い通りにブランドを作ればいいのだ」と思う方は、これ以上読み進める必要はありません。
そしてその上で、どのようにブランドを成長させていくか=顧客を獲得していくか、という作戦を考えたほうが早く目標を達成しやすいと思います。
大手という場合2通りあります。
1)国内の大手アパレル企業などのように品質や価格、販売力に強みを持ち「いいものを安く売る」総合力タイプ
2)パリや東京コレクションで活躍するような、デザイナーの個性や、ブランドの世界観を打ち出し「いいものを高く売る」デザイナーブランドタイプです。
新たなブランドを立ち上げる場合、できるだけ総合力が強い1)のタイプとは競合を避けながら、2)のブランドを目指していく方法が望ましいかと思っています。(私が大手という場合、この1)を指すことが多いです)
それでは、まず総合力タイプの弱みをできるだけ考えてみてください。わからなければ、なんとなくイメージするものでも結構です。
例えば、
・できるだけ売れ残りを減らそうとするので、保守的な商品が多くなる
・売れ筋に商品を集中させるので似たような商品(コピーも含む)が多くなる
・商品点数が多いので、手間をかけた商品、売り方が苦手である
・価格設定を優先させるため資材や素材、仕様などにこだわりきれない
・センスがよい商品が多いが、革新的なデザインの商品が少ない
・商品や販促などを別部隊で行うのでデザイナー自身が持つ世界観が伝わりにくい
等などいろいろあがると思います。これらの弱みというのは、実は大手の強みの裏返しでもあります。
できるだけ多くのお客様から気に入ってもらえる最大公約数的な商品を作ることで、大きな売上げを作っているために、逆にお客様を絞り込むことが苦手なのです。
これを顧客という視点から考えると「大手ブランドはできるだけ多くの一般的な顧客を集める」ということがいえますから、新たに作る小さなブランドは、逆に「人数は少なくても熱狂的な顧客を集める」という方法を取っていくことが基本方針になります。
商品や販促ツール等のいろいろな接触を通じで、「このブランドの商品がもの凄く好き」、「毎日でも身に付けていたい」という夢中になる顧客、熱狂的な顧客を増やしていくのです。
「これお買い得!!」と低価格だから買われるのではなく、「高いけれど、どうしても欲しい」と無理してでも買われるようなブランドにしていきます。
大手企業に対して総合力で勝つことは無理ですが、デザインや商品等の一部分で、大手の商品を凌駕する部分を作るのです。それは前述した大手の弱みを裏返しにした
・オリジナリティのあるデザイン
・ブランドの世界観を作りこむ
・資材や素材などのこだわり抜く
・商品や販売方法に手間をかける
・強烈な個性を打ち出す
等の方法によって可能になります。これらは大手がやりたくてもできないことなのです。(詳細は次回以降に)
■差別化とオリジナリティ
さて、デザインや商品の開発ということで、もう一つ大切なこと、「差別化」と「オリジナリティ」の違いを少しだけ説明します。
大手の仕事というのは、基本的に「差別化」です。客の側から見ると、同じような商品ばかり作っているように見えても、本人たちは基になっている商品とはちょっと違うものにしているから「差別化」なのだと思っています。
どういうことかというと、売れているものを見つけてきて、それにプラスアルファを付け加えるのです。モチーフを変えたり、デザインを変えたり、価格を下げたりと付加価値を高めます。
売れている商品という土台があって、それを改善しているのです。つまり既存のカテゴリーというか土俵の中で商品を増やしているのです。
ということは、小さな新ブランドが売れているものを真似して「差別化」してもダメですね。これは総合力の強い企業がやることであり、競合しても勝ち目が薄いのです。
新ブランドがやることは「オリジナリティ」を作り出すことです。「自分のブランドが一番活躍できるカテゴリーを生み出してしまう」のです。差別化は真似をした商品と同じ土俵で戦うのですが、オリジナルは違う土俵を作って闘いを避けるのです。改善ではなく、革新的なものを作るのです。
そのためにはトレンドや売れ筋、お客様のニーズ等で言われたとおりに商品を作っているだけではダメだということです。無視しろということではありません。トレンドやニーズというのは、お客様の欲しい気持ちの方向を示すものですから、大いに活用すべきなのですが、それをそのまま鵜呑みにしないで、自分なりに消化して、しっかり熟成させて、自分自身のものとして「生み出す」プロセスを経ることが大事です。「提案」と言い換えてもいいかもしれません。
ではオリジナルを生み出すには、どうすればよいかということについて、最近人気の漫画「ドラゴン桜」にこんなセリフがありました。「カタ(型)がなくておまえに何ができるっていうんだ。素のままの自分からオリジナルが生み出せると思ったら大間違いだ!カタにはめるな!なんてホザくやつはただのグータラの怠け者だ!(引用)」
オリジナルなものを生み出すためには、基礎的なことをしっかりマスターしなければならない、その積み重ねがあるレベルを超えるとオリジナルを生み出す創造力の源になるということです。知識やノウハウを吸収して、経験を重ねて、自分から「作りたいもの」が溢れるほどになるから、オリジナリティが生まれ
るのです。
では経験が少ないとオリジナルが生み出せないのか?というと、そうでもありません。自分の中で溢れ出そうとしている知識や経験を活かすことでオリジナリティを生み出すことが可能です。例えば子供の頃からダンスをしているとか、平安時代の歴史が好きで着物に詳しいとか、○○○というブランドが好きで偽物を見分けることができるぐらい知識がある、とかいろいろなものがあります。
ブランドを作り始めて半年でも、それまでの人生経験の何十年をプラスすれば、何とかオリジナルを生みだすことも可能だと思います。
もっと長くなりそうなので、今回はこのへんで