「死の谷」を乗り越える 2005.11.17
事業の初期投資をしていって、「死の谷」と呼ばれる投資がかさみ、売上げがあがらない時期が訪れます。ちょうど累積損益グラフを書くと大きな谷になっているので、この名前がついたそうです。
この谷をどうやって乗り切るか、もしくは事業の廃止・変更の判断をするのは切実な問題です。
資金があるうちに、今の事業が、今後事業として成り立っていくのか感触を得ていかないと、進むか退くかという判断ができません。
ビジネスとしての才覚や市場が無いのに、今までの投資が無駄になるから、とさらに投資をして傷口を広げることになります。
公共事業で既に時代遅れのダムなのに、予算をつけてしまったから完成させるとか、今までの投資が無駄になるから、さらに無駄なお金をかけるということになりかねないのです。
あと少しで勝てるかもしれない、とギャンブルを続けてしまうのにも似ているかもしれません。
ビジネスを始める人は、ほとんどの場合「自分は成功する」と思っています。
だから始めたからには、前に進もうとします。
(確かにある程度の「閾値」を越えるまで投資をしないと、ビジネスは離陸しません。)
でも、事業の可能性があるかどうかの判断材料になる「顧客の声」や、バイヤーの客観的な評価が無いとしたら、どうなるのでしょう・・・。
自分だけでは判断がつかないので、ほんとうに追い詰められて、貯金が底をつくまで間違った方針や商品で進むことになるかもしれません。
さて、資金が無くなってくると、「余裕」が無くなり、冷静な判断ができなくなります。萎縮して失敗しないような作戦をとろうとします。
しかし、この追い詰められたときに取ってしまう作戦は多くの場合間違っているような気がしています。
例えば何をするか?というと、「売れているものを作ればよいのだ」という短絡的な考え方をします。
売れているもの=市場にたくさん出ているもの=競合が激しい商品、です。
売れている商品を、価格を下げて販売するのは大手の戦略です。
また、売れているもののコピーはどんどん市場に溢れます。価格競争、納期競争になります。体力がある企業でなければ続きません。
零細企業が売れている商品のコピーをしようと思っても、ほとんどの場合負けてしまいます。
もしくは「売れ残りの心配が無いベーシックなもの」を作ろうと考えます。でもベーシックなもののように特長が出しにくい商品は、ブランド力と価格力で左右されます。やはりここでも大手が強いのです。
売れていないときにこそ、冷静に自分が戦う「武器」は何かを見つめなおさなくてはなりません。
新進デザイナーの場合、デザインの新鮮さや、ブランドの切り口の鮮やかさがそれにあたることが多いのではないでしょうか。
資金が無くなって、後がなくなってきて、胃がキリキリと痛み、将来の不安に気が重くなってくるときこそ、人まねではなく、他には負けない自分だけの売り物を見つけて、磨かなくてはなりません。
そして前向きな気持ちにならなくてはなりません。
売上げが上がらなくて焦ってくると、イライラしてきます。イライラしてデザインや営業していては、よけい客が離れてしまいます。
焦っていると、見込み客への期待が大きくなってしまうので、成約に結びつかないときに余計落胆してしまいます。
私は苦しいときには「この苦しさは、成功の前兆」と前向きに捉えるようにしています。そうすると少しは楽になります。
また、先行きが不安なときは、自分を元気づけるように、小さい成功・実績を積み重ねることが必要です。少しでも売上げをあげて、少人数でも支援してくれる人を増やし、少しでもブランドにファンが着くように努力していくのです。
一か八かの大きい成功を望んでも、それが適わないことは多いのです。適わない経験が続くと人間が卑屈になってしまいます。
辛いときこそ、自分のブランドの実力に自信を持つことは大切です。自分のブランドを貫いていく信念も大切です。
(ただし、客観的な視点を持たない根拠の無い自信=過信では困ります。
過信はやはり冷静な判断を狂わせます。)
死の谷という辛い時期をどう乗り越えるか、これこそ、デザイナーから経営者に成長していくための試練なのだと思います。