決めて掘り下げて「深み」を作る 2007.06.12

多くのデザイナーはブランドの立ち上げ時期には、まず気に入ったデザインや
思いつきデザインで数点から十数点の商品を作ります。
頭の中のストックから今まで作りたかったデザインを出してきてカタチにする
わけですが、それらのデザインに脈絡がない場合もあるようです。

その時その時のお気に入りを「単品」という視点でデザインしようします。

ですから、ある程度の時点でブランドのまとまりが無くなり、何をやりたいの
かわからなくなってしまうこともあります。
そうでなくても、頭の中のストックを出しつくしてしまうと次に何を作りたい
のか、わからなくなってデザインに迷ってしまうこともあります。

また、同じようなデザインを続けていると飽きてきて、全く違ったデザインを
したくなったりすることもあり、やはり外から見るとブランドの方向性が分か
らなくなったりします。

商品点数は増えてきているのに、何が特長のブランドなのかわからない、何を
表現したいのかわからない、ということになるのです。

その原因は、元になるブランドの世界観の創りこみとか、そのブランドらしさ
の根源は何か、について深く掘り下げ「決める」ことなしに好き嫌いだけとか、
思いつきでデザイン数を増やしていくからではないかと思うのです。

さらに
 ブランドのコンセプトが定まっていないことによる曖昧さ
 バイヤーや顧客からのアドバイスによるデザインのぶれ
 一つのコンセプトに決め付けることで、顧客を限定することへの恐れ
 今の方向性で良いのか、もっといい方向があるのではないかという不安
 自分のデザイン力、センスに対する自信喪失

そういったものが、混ざり合い、どんどん方向性を迷わせ
なんのブランドなのか、わからない、ということになるのだと思います。

とくに、まだ自分のビジネスが確立する前の自信がなく揺らいでいる状態で、
バイヤーや顧客から「もっと○○したほうがいいと思う」「○○を作ると売れ
るよ」というアドバイスがあると、それに過度に反応したり、盲信することも
あるようです。

しかし、あくまでブランドらしさを考えることも、ビジネスを考えることも自
分の仕事ですから、アドバイスはもらっても参考程度にとどめておいて、人に
決めてもらうのではなく、あくまで『自分で決める』ことが大事です。


さて、私は価値は「深み」から生まれる。という原則を信じています。

一つのこと焦点をあてて愚直に掘り下げていく深み、追求する深みが価値を生
むのではないでしょうか。
何度も何度も試行錯誤したり、失敗したりという経験の積み重ねや、過去や世
界に広がる情報を集めたり、思考を練り上げたりという、こだわりが強いほど、
他の人には真似できない深みを育てます。

自分の決めたコンセプトを信じて、商品やブランドの世界観を練り上げていけ
ばいくほど、ブランドに深みが生まれ、価値が高くなる(=高利益率の商品と
なる)のだと思います。

ブランドの立ち上げ初期は、アレもコレも作りたいし、作らないと売上げが増
えないという不安を感じます。市場の売れ筋のアイテムやカラーを取り入れて
いないと、売り逃してしまう不安を感じます。
それで深めるのではなく、広げてしまいます。
決めないし、絞り込まないのです。

自分が決めたコンセプトに自信が持てないので揺らいでいるのでしょう。

揺らぐことも、悩むことも悪いことではありません。いろいろ試してみて、足
掻いてみるのも必要なことです。悩まないで勘だけで仕事をするより、悩んだ
ほうが、糧になるものが多いように感じます。

しかし、たまには立ち止まって、お客様の立場から見て、自分のブランドはど
んなブランドになっているのか、確認してみたらどうでしょうか。

何でもあるけれど、どれもが中途半端な印象のブランドになっているのか、
コンセプトがはっきりしていて、アイテムが絞り込まれ一貫性を感じるブラン
ドになっているのか、
というようなことを確かめるのです。

一つのことに「決める」ということは、他は捨てる、ということですから勇気
がいります。でも、その捨てる勇気がブランドコンセプトを明確にし、深みを
生んでくれるでしょう。

コンセプトやアイテムを広げれば広げるほど、ブランドの特長が無くなり
、どこにでもある商品になるので、安くしか売れなくなります。

深めれば深めるほど、顧客は絞り込まれるかもしれませんが、熱狂的なファン
がついたり、話題になるなどの効果が生まれるものと思います。